気になる書評21

不眠に悩む人は多いが、今さらながら睡眠の大切さがわかる一冊

睡眠のはなし 快眠のためのヒント [著]内山真

■眠れる、眠れぬ それが問題だ

睡眠は生命維持にとって不可欠な生理現象である。特に現代生活にとって睡眠が抱える問題とその影響は、しばしばメディアでも関心事のトップ項目に挙げられる。
 今日の激しい環境の変化が睡眠障害を引き起こすだけでなく、複雑な人間関係や仕事のストレスによる不眠は深刻な社会問題でもあり、五人に一人が不眠症であるという。
 若い頃から不眠気味の人生を送ってきた自分には、眠ったか眠れなかったかは世界観が二分されるほどの人生の主要テーマであり、睡眠に対する必要以上の執着が、「不眠恐怖症」を無意識のうちに義務づけてしまっていた。
 本書は人間にとっての睡眠のメカニズムと意味、さらに不眠症や過眠症(うらやましい!)が如何(いか)に健康(と不健康)に深く結びついているか、臨床の現場から最新の睡眠学を一般的にわかりやすく解説する。
 睡眠にはノンレム睡眠レム睡眠があるが、このメカニズムがわかったからといって不眠がすぐ解消されるわけではないし、例えば高照度光療法といって早朝の太陽光を目に感じることで、12時間程度心身を活動に適した状態に保ち、14時間後くらいから睡眠を誘うようにするという不眠対策もあるという。
 睡眠に関心を持つ人の大半は睡眠障害者ではないだろうか。睡眠の悩みは環境的なもの、心理的なものと個人差があるが、本人にとっては切実である。私も不眠症解消本を何冊も読み、医師にも相談したことがある。不眠がうつ病のリスクになることが、ここ20年の間にわかってきたという。うつ病には不眠が伴うことが多く、不眠がうつ病の原因なのか、結果なのか、断定にはまだデータ不足だというが、睡眠によってうつ病の予防ができるなら、朗報だ。
 睡眠を研究することで人間が如何に複雑な存在であるかに目覚め、また新たな人間への興味が生まれよう。

中公新書・798円

2014.3.9掲載 朝日新聞書評より